AK-2 走り去った人

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黒澤デジタルアーカイブに”黒澤明のGLORIAを見た感想文”なる手紙がある。
二枚の用紙に英文でタイプされている。
私の頼りない英語力で
日本語に訳してみたのだが、
この内容、新聞で読んだ記憶がある。
一体誰に宛てて書かれているのだろうか?


Seeing "GLORIA"
By Akira Kurosawa


二十数年前パリで、シネマテークの
アンリ・ラングロワ、メリー・メールソン、
ロッテ・アイスナーのすすめで、
『SHADOWS』を見ました。

試写室には、この映画を作った若い人もいました。
映画の出来に大変感動したので、
彼と会って話したいと言ったら、
彼は何も言わずに逃げって行ってしまいました。
彼の行動に困惑していると、
ラングロワが、彼は内気なのだと言いました。

『SHADOWS』の中に見た素晴らしい才能は、
いつか世界の映画産業において示されることになるでしょう。
彼について耳にするのを待ちました。
そのことを今日まで思い出さなかったことに
迷わせられています。

すべて間違っていました。
彼について耳にしなかったのは日本で生活していたからで、
カサヴェテス(英文ではスペルが間違っている)の才能が
アメリカで高く賞賛されていることに気づきませんでした。
すべてはそれにあったのです。

『GLORIA』が『SHADOWS』を作った人によって
作られたことを知った時には、
とてもうれしくなり、興奮して、
自分が手をたたいていることに気づきました。
彼に対する自分の判断が
正しいと証明されると思ったので、
残念ではあったのですが、
本当に素晴らしい才能は
決して埋もれたままでいることはない、
という自分の長い間持っている信念が
正しいと証明されたと思いました。

シネマテークの試写室で見たその若い人は、
現在50歳を越えているに違いありません。
しかし、『SHADOWS』 で見た若くて新鮮な映画の感覚は、
『GLORIA』にもあります。

シークェンスの仕上げ方は美しく、
それらをどのように編集するかは自然なもので、
その人の生まれつきのものだと思います。

多くの良い映画を見てきて、前に何度も感動したことがあります。
しかし、『GLORIA』を見たコロンビアの試写室での興奮は、
特別な何かでした。
たぶん、それはシネマテークの試写室での
二十数年前と同じ種類の興奮だったのです。
そして長い隔たりの後に
同じ種類の興奮を感じることができたからです。


 
 『SHADOWS』(1959 邦題『アメリカの影』 日本公開1965年)
 『GLORIA』(1980 邦題『グロリア』 日本公開1981年)
 どちらも監督は、ジョン・カサヴェテス。


 『CINEASTES DE NOTRE TEMPS - JOHN CASSAVETES』

 1965年と68年の二度にわたる
 カサヴェテスへのインタビューで
 構成されている貴重なドキュメンタリー作品。

 日本では1991年に
 [現代の映画作家たち]と題して、
 このテレビシリーズの他の数本と共に
 草月ホールで上映されたことがある。



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©雪柳春雷
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